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学会報『JES News』第9号

2024年10月22日発行

【編 集】   日本評価学会出版・広報委員会
【発行責任者】田中啓
【連絡先】   koho@evaluationjp.org jes.info@evaluationjp.org

Ⅰ 巻頭言「評価の実務者と若者に向けて

2022-2023年度 日本評価学会 功績賞受賞者  西野 桂子

 出版広報委員長の田中啓先生から「会長・副会長が一巡したので」と、顧問の私に順番が回ってきました。これまでの巻頭言を読み返すうちに、「私と評価-過去20年を振り返って」という題で寄稿したことを思い出しました。2000年9月に設立された日本評価学会ですが、90年代にPCM研修やODA事業評価をコンサルタントとして実践していた関係で、諸先生からお誘いを受け、設立直後に入会しました。「私と評価」にも書いたとおり、「一実務者が学会に入ることに躊躇」したのですが、「実践を通して学んできたことを、学術的に考えてみたかった」と当時の心境を説明しています。この「評価活動要覧:評価と私」は学会設立10年を記念して2010年9月に発刊された特集号で、読み直すと当時の学会の勢いと評価に対する熱意が感じられます。

 「学会は怖いところ」と思っていた私でしたが、国際協力の分野だけでなく、政策、学校教育、福祉など学際的な未知の扉を開けてくれました。最初は恐る恐る参加した研究大会でしたが、フレンドリーな雰囲気で次第に知合いも増え、参加が楽しみになりました。また、多くの事例から、より良い国際協力、より良い調査、より良い評価に通じる多くの学びを得ることができました。また、研究者から「現場はどお?」と聞かれることにより、実務者の強み、さらには研究成果を実践に移す重要性を再認識しました。このニュースレターをたまたま目にした評価の実務者の皆さんに「ぜひ、恐れずに評価学会に入って、評価の現状を発表してください」と伝えたいです。

 この原稿を書くにあたってもう一つ思い出したのは、2001年7月に刊行された「日本評価研究第1巻1号」から恐れ多くも編集委員になっていたことです。当時副編集委員長であった国際協力事業団(現国際協力機構)の三好皓一氏から「やってみない?」とお誘いを受けたのがきっかけでした。以来今日までずっと「日本評価研究」の編集に関わってきました。ここで学んだことは、「いかに理論と実践を結び付け、評価研究の発展につなげられるか?」という点です。編集委員会からすれば、行政機構の職員、学校教員、ODAコンサルタントなどが持つ重要な現場経験(評価ねた)をどうすれば、評価研究誌上で発表してもらえるか、試行錯誤の働きかけが続いています。12月の大会でも、編集委員会が企画するラウンドテーブルがありますので、ぜひのぞいてみてください。

 最後に取り上げたいのは「学会の若返り」が重要という点です。2022年末に理事から顧問になったとき、「思えば遠くへ来たもんだ」と思いました。最近の学会を見てみると、ちらほら「若手」が出てきているものの、まだまだ足りないと感じています。2020年1月から4年間アジア太平洋評価学会(APEA)の副会長をやらせていただきましたが、どの会合にでても20代・30代の若手がエネルギッシュに貢献しています。世界には「The Global Network of Young and Emerging Evaluators通称Eval Youth」というネットワークがあり、アジアには「Eval Youth Asia」というリージョナル・ネットワークが設立されています。彼ら・彼女らはAPEAを含む多くの団体と協力し、評価を学び、実践につなげ、発信を続けています。詳しくは12月の大会で発表する予定ですが、日本の若い評価者・研究者がアジアや世界のEval Youthネットワークに参加し、積極的に発信して欲しい、そしてその活動を日本評価学会に還元して欲しいと願っています。 

 2025年11月に第5回APEA大会が東京で開催されます。世界の評価者とネットワークを構築できるまたとない機会です。多くのJES会員の参加をお待ちしています。

Ⅱ 評価士養成講座 開催報告

研修委員長 今田 克司((一財)CSO ネットワーク)

第34期評価士養成講座は、オンデマンド&オンラインによる開催で、39名様の参加を得て実施し(2024年5月18日~6月16日)、第35期評価士養成講座は、対面による開催で、28名様の参加を得て実施しました(2024年8月23, 24, 25, 30, 31, 9月1日)。

会員アンケートや理事会での討議を経て、第30期より、よりプログラム評価を中心に据える講座内容に改変しています。評価にまつわる世の中の動きの中で、本講座の受講希望者の数も増え、関心層も広がっています。日本評価学会では、講座を継続していくとともに、「評価士」対象のフォローアップ講座を開催するなど、社会のニーズに的確に応えてまいります。

Ⅲ 書籍紹介 『日本の政策はなぜ機能しないのか?:EBPMの導入と課題

杉谷 和哉(日本評価学会会員・岩手県立大学)

 「政策評価の簡略な歴史とEBPMの簡単な導入が併記された一冊があればいいのに」と筆者が思うようになったのは、ここ数年のことである。

 というのも、EBPMの専門家として、色々な場で色々な研究者と交流をしていると、ふと不安に駆られることがしばしばあったからである。それは、今日EBPM推進の中心を担っている人々の間に、政策評価の歴史が十分に共有されていないのではないか、という疑念であった。今日のEBPMを牽引する経済学者やデータサイエンティスト、データを用いた経営を担う経済人らの突破力は目を見張るものがあるが、その提言に過去の教訓がどれだけ活かされているのか。活かされていないとすれば、かつての失敗を繰り返すのではないか──評価の実務や研究に携わってきた本学会の学会員諸賢であれば、一抹の不安がよぎるはずである。

 こうした疑念をもとに本書の企画はスタートした。本書の想定している読者は、EBPMに携わっている自治体職員や行政に関わっている方々はもちろんだが、EBPMを通じて政策の世界に飛び込んできた経済学者やコンサルタントらも対象としている。そういうわけで、本書の構成は、第一章「EBPMの出現」、第二章「日本における政策評価」、第三章「日本におけるEBPM」、第四章「EBPMを掘り下げる」、第五章「政策の合理化はなぜ難しいのか」、第六章「EBPMのこれから」というものになっており、第二章で政策評価の歴史を短く振り返っている点に特徴がある。本書を通じて、日本の政策評価の歴史についての知識が広まり、EBPMの今後の展開に活かされることを祈るばかりである。

 本書にはもう一つの特徴がある。それは、第四章で政治理論や科学哲学の知見を用いてエビデンスを吟味している点である。因果性は科学哲学における一大テーマであり、科学哲学者がEBPMについて積極的に発信しているのは米英圏ではごく普通である。翻って日本ではそうした営為はまだ少ないが、本学会の学会誌、第24巻1号の特集で多くの論文が試みた実践がそうであるように、日本でもこうした議論が徐々に広まりつつある。

 EBPMは、政策の効果を厳密に検証することだけで実現できるものではない。エビデンスの多様な機能を踏まえつつ、それを様々な視点から検証、吟味することも必要であろう。この点でEBPMは実に奥深い研究対象だと言える。本書を入り口に多くの人がEBPM研究に関心を持ち、この豊かな研究対象に取り組んでくれれば、嬉しく思う。 

著者紹介

1990年大阪府生まれ。京都府立大学公共政策学部公共政策学科卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。京都文教大学非常勤講師、京都大学大学院文学研究科特定研究員などを経て、現在、岩手県立大学総合政策学部講師。著書に『政策にエビデンスは必要なのか:EBPMと政治のあいだ』(ミネルヴァ書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる:答えを急がず立ち止まる力』(共著、さくら舎)など。

Ⅳ 分科会から:「社会的インパクト評価」の隆盛に対する評価学会の対応は?

社会的インパクト評価分科会 代表 今田 克司((一財)CSO ネットワーク)

 最近あちこちで見かける社会的インパクト評価。本学会においても、昨年12月に大阪大学で開催された第24回全国大会において、「大学の社会的インパクト評価を考える」をテーマにシンポジウムが開かれました。筆者は研修委員長も務めていますが、ここ数年、「社会的インパクト評価について学びたい」と表明して評価士養成講座を受講する受講生も増えています。

 とはいえ、「社会的インパクト評価」は、評価学会や学会関係者が関与する外側で発展してきた部分が大きいというのは間違った表現ではないでしょう。そして、昨年のシンポジウムでも話題にしたように、この評価の実践において、実践者や対象者の間で、一定の戸惑いや混乱も生じています。

 日本では、2015年ぐらいから数年かけて、休眠預金等活用法の法制化に先立ち、休眠預金を活用した民間公益活動をいかに評価するかという課題に対し、社会的インパクト評価の導入が構想されました。これをきっかけに(あるいはこれと並行して)、社会的インパクト評価を活用しようとする動きは分野あるいは省庁単位で広がり、文化芸術活動、科学技術イノベーション、企業のサステナビリティ活動、大学に代表される教育機関、そして民間非営利団体の活動一般の評価方法としての認知が広まり、最近ではスポーツ団体の活動評価においてもその導入が検討されるようになってきています。同時に、昨今のサステナブル・ファイナンスへの注目の一環で、インパクト投資に対する関心が国内外の金融セクターで高まりを見せており、そこで行われる評価が「(社会的)インパクト評価」として流通するようになってきています。

 このような動きに対して、本学会として一定の見解や立場を示した方がよいのではないかという思いから、2022年に「社会的インパクト評価」分科会を立ち上げました。第23回全国大会(2022年)において共通論題のセッションを持ち、分科会内部で議論を継続してきましたが、この度、「社会的インパクト評価に関する現状整理」(案)をまとめました(こちらからご覧ください)。分科会メンバーそれぞれの立場から「社会的インパクト評価」がどう見えているのか、どう実践されているのかについて意見交換し、その概念や活用に関する見解を分科会活動の通過点としてまとめたのがこの「現状整理」案です。今後、12月の第25回全国大会でのラウンドテーブル含め、学会員のコメントを募り、最終案へと仕上げていきたいと考えています。そして、次のステップとして、「社会的インパクト評価」のあるべき姿を指針等の形でまとめる方向で議論を進めていきたいと考えています。

 日本評価学会として、「社会的インパクト評価」に関する共通理解を醸成し、「持続可能な社会の実現に貢献する評価研究と評価の実践を目指して」という学会のミッションに「社会的インパクト評価」の名の下に行われる諸活動が寄与するよう、分科会として尽力していきたいと思います。

*第25回全国大会でのラウンドテーブルに向けて、会員のみなさんからの「現状整理」案に対するコメントを募集しています。こちらより、簡単なコメント・フォームへのご回答をお願いします(締め切り:11/24)。ラウンドテーブルにて結果発表いたします。

**分科会への新規加入も募集しています。ご興味おありの方はお問い合わせください。

Ⅴ 編集後記

出版・広報委員会委員 小澤 伊久美(国際基督教大学)

 JES News第9号はいかがでしたでしょうか。これまではPDFをお届けしてまいりましたが、今号からはウェブページの形に切り替えることになりました。読者のみなさまにワンクリックで見ていただけますし、他者への共有もしやすくなるという利便性が変更の理由です。出版・広報委員会では、会員相互のコミュニケーションの促進、学会および会員の皆様の活動を一般に向けて周知することを目的として活動しておりますが、JES Newsもその一つです。学会ホームページのリニューアル後、学会の活動に関する各種情報が見やすく掲載されるようになりましたので、記事に関連する情報にはリンクを貼ってホームページをご覧いただきやすくいたしました。ぜひご覧ください。

 今号の巻頭言は、2022-2023年度 日本評価学会 功績賞受賞者 の西野桂子会員にお願いいたしました。続いて、研修委員会からは第34期・第35期 評価士養成講座の開催報告を、杉谷和哉会員からは書籍『日本の政策はなぜ機能しないのか?:EBPMの導入と課題』をご紹介いただきました。最後に、社会的インパクト評価分科会から分科会内部で議論を継続してきた「社会的インパクト評価に関する現状整理」(案)が公開され、12月の第25回全国大会でのラウンドテーブルで議論がなされる予定であるといったことなどをご報告いただきました。お忙しい中、ご寄稿くださいました皆様に心から御礼申し上げます。